2014年2月22日土曜日

妖怪根付【三】〜立体図百鬼夜行〜

海洋堂から発売されている『妖怪根付』というストラップのガチャガチャを見つける。

 先日、ヨドバシカメラ二階、オモチャ売り場エリアのカプセルトイコーナーを何気なく見ていたら、海洋堂の販売機(海洋堂カプセルQミュージアム)の中に『妖怪根付』というガチャガチャがあるのが目に止まった。妖怪フィギュアのストラップなのだが、見本の画像を見る限りかなり出来が良さそうだ。『ぬらりひょん』のアップの下に数種類の妖怪が並び、それぞれ茶色と色付きの各二種が用意されているようだ。よく見ると『妖怪根付』の横に「竹谷工房謹製」と銘打たれている。竹谷とは『竹谷隆之』のことで間違いないだろうが、それならフィギュアの出来の良さも頷ける。これで一気に購買意欲を擽られたが、『工房』という文字が少々引っ掛かる。よく『竹谷監修』、『竹谷総指揮』というシリーズがあるが、あれは竹谷本人が全て造形しているのではなく、竹谷の元で他の造型師が原型を担当しているのだ。もちろん何れも下手な物は竹谷の名を冠してリリースすることはないだろうが、純然たる竹谷原型品を欲する場合、厳密には別物と言わざるを得ない。それでも兜をかぶった髑髏の出来が特に良く心惹かれる。これなら竹谷以外の造型師の作品でも構わないと思わせる出来だ。しかし、衝動買いを躊躇させる要因がもう一つのある。一回300円という価格だ。見本から伺えるクオリティからも、300円分の価値が十分あるのはわかる。しかし、欲しい物が必ず当たるとは限らないというのがネックだ。商品自体に価値は見出せるが、ガチャガチャの商品がランダムに出てくるというシステムが購入を躊躇わせるのだ。それにしてもガチャガチャといえば昔は百円玉一枚でできたものだが、物価の上昇のせいもあるだろうが昔の三倍の価格とは驚きである。


 どうしようか迷ったが、いつも迷ったときは見合わせると決めているので、その日は購入を控えることにした。販売機を横から見てみるとカプセルはほぼ満杯で、まだ焦る必要はないようだ。

 帰宅してから『妖怪根付』についてネットで検索してみると、ヨドバシで見てきたのは『妖怪根付』シリーズの第三弾で、二月二十日に発売したばかりの新商品だそうだ。やはり竹谷は『竹谷隆之』のことで、『リボルテック山口』で有名な『山口隆』の二人で原型総指揮を執っており、嬉しいことに本人達も原型制作を担当しているそうだ。さらには気になっていた『古戦場火』は、なんと竹谷が原型制作だという。骨好きだと自身が語っているのを読んだことがあるので、もしやとは思ったのだがこれで益々欲しくなってしまった。因みに第三弾はお気に入りの『古戦場火(こせんじょうのひ)』の他、『河童』、『姑獲鳥(うぶめ)』、『ぬらりひょん』、『土蜘蛛』の全五種。更にそれぞれ『フル彩色』と『木彫風彩色』の二パターンがあって、前者の方がレアリティが高いそうだ。シークレットの類がないので有り難い。第一希望はもちろん『古戦場火』で、第二は『土蜘蛛』、第三は『河童』といったところか。逆に『姑獲鳥』は全く欲しくない…。因みに第一弾は『鬼太郎百鬼抄』と題したお馴染みの水木キャラの特集で、『鬼太郎』、『一つ目小僧と傘化け』、『がしゃどくろ』、『さがり』、『百目』、『目玉おやじ』と、石燕とは無関係なものばかり。第二弾『立体図百鬼夜行』から、鳥山石燕の画集に収められた妖怪の立体化がスタートした模様。『天狗』、『鬼』、『道成寺鐘』、『目競』、『松明丸』といったラインナップ。この弾から第三弾以前が手に入るか不明だが、機会があったら探してみよう。


 そして本日、意を決して『妖怪根付』を手に入れるべく、ヨドバシ2Fカプセルトイコーナーへ。最近、甥がハマってる『妖怪ウォッチ』の筐体に親子連れが列を作っている。それを横目に、目当ての『妖怪根付』の販売機の前へ。
三百円を入れ、ハンドルを回す。緑色のカプセルが出てきた。何が入っているのだろう…。どうしても我慢できずその場で開封。何と!一発目で『古戦場火』を当てたのだ!しかし、惜しむらくは『フル彩色』ではなく『木彫風彩色』であったことだ。今日は中々引きが良さそうなので、欲が出てあと二回挑戦することにした。今すぐ開けたい気持ちをグッと堪えて、帰宅の途へ。一体何が当たったのだろうか…?帰りの道すがら、気になって幾度となく開封してみようと思ってはそれを思い留まり、付属の解説書で気を紛らわせることとなった。

 さて、帰宅後先ずは改めて『古戦場火』を御開帳。開封前のカプセルはこんな感じ。







 さて、いよいよお楽しみの残る二個の開封。バッグの中で混ざってしまったので、どちらが二個目だったのかわからなくなってしまったが、手にした方のカプセルを開けてみると…



第二希望の『土蜘蛛』であった。嬉しいことに『フル彩色』のQペグ付き。かなり打率が良いではないか!




 気を良くして三つ目開封。



 『木彫風彩色』バージョンのぬらりひょんであった。Qペグ無し、つまりハズレ。『古戦場火』のフル彩色、或いは『河童』が当たれば言うこと無しだったが、そこまで思い通りにはならなかった。『姑獲鳥』よりはマシだが、残念感が漂う。しかし、『木彫風彩色』バージョンとはいえ、Qペグ付きの『古戦場火』を入手できたのだから良しとしよう。

 『ぬらりひょん』をビニールから出してみる。



 『木彫風彩色』は全体的に茶色で、所々ワンポイントとして墨入れのように黒が塗られている。これで本物の根付の『なれ』を表現しているのだろうが、欲を言えば黒地の上に茶色を塗って、茶が禿げると地の黒が出てくるような工夫をして欲しかった。そこまで拘ったらコストがかかって三百円では収まらなくなってしまうのかもしれないが、恐らく実用していれば色んな所にぶつかって素材の地が出てくるだろう。その際、素材の人工的な露出するのは味気ない。全体的に硬いが、細い部分は多少柔軟性がある。座布団が本体から離れるようになっており、紐止めにもなっている。


 『ぬらりひょん』は『福元徳宝』という原型師の作品なのだそうだが、第一弾では鬼太郎や目玉親父など制作しており、どれも上手い。ぬらりひょんが当たったときは少々ガッカリしてしまったが、改めて見ると良く出来ている。残念ながら画図百鬼夜行と違って帯刀していないが、その代わりに扇子と酒器を持っている。

 『土蜘蛛』はフル彩色だが、とても丁寧に塗り分けされている。切り裂かれた腹から大量の髑髏が出てくるギミックになっている。デザインは水木版をコミカルにした様な感じである。

 『古戦場火』は自称『骨マニア』の竹谷原型だけあって素晴らしい出来映え。髑髏の出来は言うに及ばず、兜も良く出来ている。前立てが無いのが朽ち果てた感じを一層強めている。石燕画の『古戦場火』は垣根と笈、笠、杖のそばを無数の燐火が彷徨ってるだけで、死霊と化した兵の首を表現したのは竹谷のオリジナル。
 解説書には「妖怪たちのルーツ鳥山石燕に竹山工房が挑む」と冒頭にあるように、石燕の「画図百鬼夜行」に掲載されている妖怪をリデザインして立体化するのがコンセプトで、必ずしも石燕の画を忠実に再現することを重要視しているわけではないようだ。五種類の見本を見てみると、石燕版に近いのは『ぬらりひょん』だけのようである。

 酒を飲みながら『ぬらりひょん』を眺めていると、出来の良さのために愛着が湧いてくる。それに『木彫風彩色』バージョンの方が味があって良い。
 今までも何種類かの妖怪をモチーフにしたフィギュアが発売されているが、この『妖怪根付』シリーズの出来が一番ではないだろうか。従来の飾って楽しむ物も結構だが、今作のように紐で取り付けて携帯できるのが良い。第四弾が発売されることを期待するが、近世に「創作」されたものよりは正統派の立体化、特に竹谷の骨モノを切に願う。


古戦場火
一将功なりて万骨かれし枯野には
燐火とて火のもゆるあり
是は血のこぼれたる跡よりもえ出る火なりといへり

土蜘蛛
源来光土蜘蛛を退治し給ひ事
児女のしる所也

ぬらりひょん