2007年2月17日土曜日

スラムダンク『山王戦』

 急に『スラムダンク』の桜木シュート合宿のあたりが読みたくなったので、22巻を手に取った。二〜三話だけのつもりだったのに、結局最終巻まで読んでし まった。スラムダンクを読むのは久しぶりなのだが、今回は『湘北・山王戦』を今までと違った読み方をすることになった。それは『Hさん』からお聞きした 『能代工業バスケ部』のお話を思い出しながら読んだからだ。

 Hさんは能代工業バスケ部(それも加藤廣志監督の時代)のレギュラーだった方で、その能代工業バスケ部の貴重な話を聞かせていただく機会があった。
 印象的だったのは「相手がどこだろうと眼中になかった」という強気な言葉。それは慢心からくる侮りでなく、厳しい練習と過酷なレギュラー争いを生き抜いた者の自信の表れなのだろう。そして、本当のライバルは日々レギュラーの座を奪い合うチームメイトということなのだ。 
  伝統ある能代工バスケ部のレギュラーであるというのは選手に大きな自信と誇りを持たせると思う。しかし、時にはそれが目に見えない重圧として、選手に重く のし掛かることもあっただろう。「自分たちの代で能代工バスケ部の歴史に汚点を残してはならない」という強い思いがあったそうだ。卒業したOB達の厳しい 目もプレッシャーだったという。大会前にOBチームが胸を貸してくれるそうなのだが、そこで無様な試合をしようものなら…。
 他にも大学時代、JBL時代の話もしていただいたが、惜しむらくは私にもっとバスケの知識があれば色々取材できたのに。きっと、お話を聞かせていただく機会はまたあるだろう。

 あと、スラムダンクを話題にしていたとき、思いがけず「流川のモデルは外山だと思う」という一言が。大抵、登場人物のモデルはNBAの選手に求めるだろうが、Hさんの口から飛び出したのは意外にも日本人選手だったのだ。
  そういえば、1999-2000シーズンのニューヨーク・ニックスのメンバー達に湘北バスケ部はのイメージをダブらせて試合を観ていたことがあった。キャ ンビーの『勉族』のタトゥーがきっかけでニックスを注目するようになったのだが、この坊主頭のPFがどことなく桜木っぽく見えたのだ。ケガのためいつも スーツ姿で試合を見守っていたユーイングは赤木。3Pシュートが武器のLJは少年の頃グレてて、更正プログラムがきっかけでバスケを始めたそうだ。グレて た3Pシューターといえば三井。湘北っぽいという勝手な思いこみでニックスを応援するようになった。このシーズンのニックスは調子がよく、何とファイナル まで進出した。スパーズに破れてしまい、残念ながら優勝を逃してしまうが、本当に素晴らしいチームだった。

赤木→パトリック・ユーイング(Patrick Ewing)
桜木→マーカス・キャンビー (Marcus Camby)
流川→ラトレル・スプリーウェル (Latrell Sprewell)
三井→ラリー・ジョンソン (Larry Johnson)
宮城→チャーリー・ウォード (Charlie Ward)

  私はバスケ経験者でもスレたマンガ読みでもないので、今までは何の疑問も持たずに『スラムダンク』を楽しんでいた。しかし、Hさんのお話を思い出しながら 山王戦を読むと、才能・経験が豊富で練習量がどこよりも多いであろう山王が湘北に負けたのは不健全に思えてくる。無名チームが名門チームを破るという大番 狂わせは、少年マンガの醍醐味であり、一巻から見続けてきた主人公たちに感情移入し、勝って欲しいと思うのが素直な読者だ。有終の美を飾るための演出なの だろうが、テンションの高い展開にすっかり騙されている感がある。山王に死角はなかったはずだ。始めからベストメンバーで試合に臨み、ゾーンプレスも仕掛 けた。点差も相当離れ、片や湘北はスタミナ切れ。湘北の不利な点を上げると枚挙に遑がないわけだが、その状況から奇跡の逆転劇というのは無理がある。山王 の選手達がそれぞれ積み上げてきたものは何だったんだろうとさえ思えてくる。一つ気になるのは、連載があの後も続いていたとして、それでも湘北は山王に勝 利していたのだろうか?
 何だかんだ云ってしまうのは、作者の井上雄彦がバスケに造詣が深く『スラムダンク』がとてもよくできた作品だからだ。そ れにしても、もっと桜木はじめ湘北バスケ部の成長を見てみたかった。新入部員も登場するはずだっただろう。序盤からの余計なものがどんどん削ぎ落とされ、 『湘北・綾南戦』あたりから純粋なバスケットマンガとして面白くなってきて、これからというときだったのに。実に惜しい。